赤ちゃんの百日咳:新生児が危険な理由と予防接種のタイミング
赤ちゃんの健康を写真1枚で確認
無料で始める咳が2週間を過ぎても続いていて、いったん出はじめると顔が真っ赤になるほど立て続けに咳き込むのに、発作がおさまるとけろっとしている。そんな様子を見ていらっしゃるなら、百日咳についてまず知っておいていただきたいのはこの一点です。百日咳がいちばん怖いのは、生後2か月、つまり最初の予防接種を受ける前の時期なんです。まだワクチンを受けておらず、赤ちゃん自身には百日咳を防ぐ手立てが何もない期間だからですね。しかもこの時期の赤ちゃんは、よく知られているあの激しい百日咳の咳をしないことがあります。咳の代わりに、数秒間息が止まる無呼吸として現れることがあるからです。この記事では、風邪・クループ・細気管支炎との見分け方、100日咳と呼ばれる3つの経過、日本の予防接種のしくみ、そして妊娠中の接種と家族の接種で最初の2か月の空白をどう埋めるかを、順にご説明しますね。

なぜ月齢の低い赤ちゃんほど危険なのですか
同じ病気でも、月齢によって重さがまるで違います。厚生労働省は、百日咳について1歳以下、特に生後6か月以下では死亡例もあると注意を呼びかけています。アメリカ小児科学会(AAP)も1歳未満を最も危険な年齢とし、百日咳にかかった赤ちゃんの約3分の1が入院すると説明しています。肺炎やけいれんといった合併症も、この年齢で起こりやすいものです。
理由は2つが重なっているからです。1つは気道がまだとても細いこと。大人なら咳で押し出せる程度のむくみや痰でも、赤ちゃんの細い気道では空気の通り道が大きくふさがれてしまいます。もう1つは、守りが空いている時期が実際にあることです。百日咳を含むワクチンの初回接種は生後2か月から始められるので、生まれてからそれまでの期間は、自分でつくった免疫もワクチンでもらった免疫もない状態なんですね。百日咳の対策が「赤ちゃんを守ること」ではなく「赤ちゃんの周りを整えること」になるのは、このためです。
そして、この記事で1つだけ覚えて帰っていただくならここです。月齢の低い赤ちゃん、特に新生児は、百日咳にかかってもあの有名なヒューという音を出さないことがあります。あの音は発作のあとに細くなった気道へ空気を一気に吸い込むときに鳴るので、強く息を吸う力が必要なんです。力の弱い赤ちゃんは音を出せず、代わりに数秒間息が止まる無呼吸や、唇や顔が青くなるチアノーゼとして現れます。ですから「あまり咳をしていないから軽いのだろう」という受け止め方は、百日咳ではまったく逆に危険なのです。
⚠️ 生後3か月未満の赤ちゃんが息を止める、唇・顔・指先が青くなる、ぐったりして反応が弱いといった様子を見せたら、おうちで様子を見る場面ではありません。すぐに119番に連絡して救急へ向かってください。咳がなくても、熱がなくても同じです。風邪・クループ・細気管支炎とどう見分けますか
咳をしている赤ちゃんを前に病名を見分けるのは、簡単ではありませんよね。ただ百日咳には他の咳の病気とはっきり違うところがあるので、まずは下の表でその違いがどこにあるかを見ていきましょう。
| 項目 | 百日咳 | 風邪 | クループ | 細気管支炎 |
|---|---|---|---|---|
| 熱 | 微熱かほとんど出ない | 微熱から中等度 | 微熱が多い | 38~39°Cの高熱も |
| 咳の様子 | 息つぐ間もなく続く発作性の咳、最後に息を吸い込む音 | 軽くコンコンする咳 | 犬が吠えるようなケンケンした咳 | ゼーゼーを伴う咳 |
| 発作と発作の間 | おさまると普段どおりに見える | おおむね普段と同じ | 息を吸うときのゼロゼロが残る | 咳がないときも呼吸が速く苦しそう |
| 咳が続く期間 | 数週間から数か月 | ふつう1~2週間 | 多くは3~5日 | 1~2週間(咳はもう少し続くことも) |
| 多い年齢 | どの年齢でも、1歳未満で最も重い | どの年齢でも | 生後6か月~3歳 | 2歳未満、特に生後6か月未満 |
表の中で特に見ていただきたいのは3つの行です。1つめは熱がほとんど出ないこと。熱がないと親としては安心してしまいますが、百日咳は熱ではなく咳の形で気づく病気なんですね。2つめは発作と発作の間はけろっとしていること。数分前まで息が詰まりそうに咳き込んでいた赤ちゃんが、診察室に着くころには笑って遊んでいて、結局一度も咳を見せないということがよくあります。3つめはヒューという音は月齢の低い赤ちゃんでは出ないことがあるという点です。音がしないからといって百日咳を否定はできません。
ここに時間という軸を足してみてください。風邪もクループも細気管支炎も、たいてい1~2週間で方向が見えてきますが、百日咳は2週間を過ぎてからむしろ強くなる方へ進みます。咳が2週間を超えて、夜に特にひどくなっているなら、その時点でもう一度小児科を受診して「百日咳の可能性も診てほしい」と伝えるのがおすすめです。咳の音での見分け方は赤ちゃんの咳の音で原因を見分けるに、それぞれの病気は風邪の症状ガイド、クループの対処法、細気管支炎とRSウイルスにまとめてあります。
なぜ100日咳と呼ばれるのですか
百日咳は、かかると決まった3つの段階をたどって進みます。今どの段階にいるのかがわかると、あとどれくらい続きそうか、そして今なにをすべきかが整理できますよ。

第1段階 カタル期、1~2週間
- 鼻水、くしゃみ、軽い咳、微熱から始まります
- この時期の見た目は風邪とほとんど区別がつきません
- ところが、うつす力がいちばん強いのはまさにこの時期です
第2段階 発作期、最長3か月
- 咳が発作のように立て続けに出るようになり、夜にひどくなります
- 発作の最後に息を吸い込む音が出たり、月齢の低い赤ちゃんでは無呼吸として現れたりします
- 咳の勢いで吐くこともあり、発作の間はけろっとしています
第3段階 回復期、数週間から数か月
- 発作の強さと回数が少しずつ減っていきます
- 治ったあとも、風邪をひくとその咳が一時的にぶり返すことがあります
3つの段階を合わせると、なぜ百日咳と呼ばれるのかが実感できますよね。困るのは、この流れに1つ落とし穴が隠れていることです。親が受診を決心するのはたいてい第2段階なのに、うつす力がいちばん強いのは風邪だと思って過ごしてしまう第1段階なんです。百日咳が静かに広がってしまう理由は、このズレにあります。
💡 うつす力は咳が出はじめてから2~3週間がいちばん強く、なかでもまだ風邪に見える最初の1~2週間がピークです。いちばん元気そうに見えるときにいちばんうつしやすいということなので、家に赤ちゃんがいるなら、大人の軽い咳も見過ごさないでくださいね。予防接種はいつ、何回受けますか
日本では百日咳を含むワクチンとして、五種混合ワクチン(5種混合・DPT-IPV-Hib)が定期接種で使われています。ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、ヒブの5つをまとめて防ぐワクチンです。厚生労働省が示すスケジュールは次のとおりです。
| 接種 | 時期 | 回数 |
|---|---|---|
| 初回接種 | 生後2~7か月に開始 | 20日以上の間隔をあけて3回 |
| 追加接種 | 初回接種の完了から6か月以上あけて | 1回 |

ワクチンを受けることで、百日咳にかかる危険性は80~85%減らせると厚生労働省は説明しています。ここで自然にこんな疑問が浮かびますよね。では生まれてから生後2か月までは、どうすればいいのでしょうか。この問いへの答えが、百日咳対策のほぼすべてだと言っても言いすぎではありません。初回接種前の赤ちゃんはワクチンで守れないので、その期間はワクチンが赤ちゃんの代わりに周りの人の中に入っている必要があるんです。次の2つのセクションが、まさにそのお話です。月齢ごとの予防接種の流れは赤ちゃんの予防接種スケジュールにまとめてあります。
妊娠中の接種はどうやって赤ちゃんを守るのですか
妊娠中に百日咳のワクチンを受けると、お母さんの体でつくられた抗体が胎盤を通って赤ちゃんに渡ります。赤ちゃんはその抗体を持って生まれ、自分で初回接種を受けられるようになるまでの空白をそれで乗りきります。赤ちゃんがいちばん弱い時期を埋める方法として、今のところこれがいちばん直接的なんですね。
ただし、ここは国によって事情が違います。イギリスは妊娠20週ごろ、アメリカは妊娠後期の接種をすすめています。抗体が十分につくられて胎盤を越えるには、出産までにある程度の時間が必要だからです。一方、日本では妊婦さんへの百日咳ワクチンはまだ定期接種にはなっていません。日本小児科学会は、妊婦への百日咳ワクチンを定期接種にするよう要望を出しているところです。接種を考えている場合は、かかりつけの産婦人科で相談してみてくださいね。
💡 妊娠中の接種は妊娠のたびに受け直すものです。第一子のときにつくった抗体が次の赤ちゃんへ自動的に引き継がれることはなく、時間とともにお母さんの抗体も減っていくからです。第二子・第三子のときも、あらためて同じ相談をしてくださいね。
赤ちゃんの周りの大人が先に守る
赤ちゃんが百日咳にかかると「いったいどこでうつったのだろう」と思いますが、答えはたいていとても近くにあります。百日咳は年上のきょうだいや、接種から時間がたった大人から赤ちゃんへ移ることが多いんです。大人が百日咳にかかっても長引く咳で済むことが多いので、本人は風邪だと思ったまま赤ちゃんを抱っこしてしまうんですね。
そこで生まれた考え方がコクーニング(cocooning)です。繭のように赤ちゃんを包むという意味で、赤ちゃんに近づく人が代わりに免疫を持ち、赤ちゃんへ届く道そのものを断つ方法です。アメリカ小児科学会(AAP)は1歳未満の赤ちゃんと接する大人全員が百日咳ワクチンの追加接種を受けること、そして11~12歳での追加接種をすすめています。日本では百日咳を含むワクチンの追加接種の考え方が異なるため、大人や年上のきょうだいの接種については、かかりつけの小児科や内科で相談してみてください。
実際には、次の順番で進めると無理がありません。出産前に、同居する家族とよく訪ねてくる祖父母の接種状況を確認しておき、最後の接種がいつだったか思い出せない大人は医療機関で相談してもらいます。赤ちゃんが生まれてから慌てて動くと、抗体ができるまでの時間が稼げません。そして咳が出ている人は、たとえ軽い咳でも赤ちゃんとの距離をとるほうが安全です。
抗菌薬は咳を止める薬ではありません
百日咳と診断されると抗菌薬が処方されます。ただ、ここで多くの親御さんががっかりされるところがあります。抗菌薬を飲んでも、すでに始まった咳はあまり減りません。百日咳の咳は菌が残した傷みによって続くものなので、菌を減らしたからといってすぐに咳が止まるわけではないんです。ですから抗菌薬の目的は症状を和らげることではなく、これ以上うつさないことにあります。
とはいえ、抗菌薬に意味がないわけでは決してありません。2つの点で決定的です。1つめは、咳の発作が本格的に始まる前の早い時期に使うほど効果が大きいということ。咳が長引くと感じたら早めに受診することが、実際に経過を変えます。2つめは、うつすのを止める効果が確かなことです。適切な抗菌薬を始めて5日たてば、もう人にうつさない状態になります。家に小さいきょうだいがいるなら、この5日がその子を守る時間になります。咳が出はじめて3週間以内に診断された場合に抗菌薬を使うという考え方があるのも、その時期を過ぎるとすでにうつす力が失われているからなんですね。
隔離もこの5日を目安に考えるとわかりやすいです。ただし、保育園や幼稚園にいつから通えるかは、通っている園とかかりつけの小児科で必ず確認してください。園によって方針が違い、お子さんの状態によっても判断が変わるからです。そして診断がついたら、同居している家族、特に赤ちゃんや妊婦さんについても対応が必要になることがあるので、家族構成をそのまま医療者に伝えてくださいね。
おうちでできること、してはいけないこと
百日咳は咳そのものを消す方法がないので、おうちでやることの多くは、赤ちゃんが発作を乗りきるのを助け、その合間にしっかり飲んで眠れるようにすることです。そしてそれぞれに「ここまではおうち、ここからは病院」という線があります。
市販の咳止めは使わないでください
- 一般的な咳止めは、百日咳の発作性の咳には効きません
- 特に月齢の低い赤ちゃんでは、得られるものより心配のほうが大きくなります
- 👉 薬を探したくなるほど苦しそうに見えるなら、それが受診のタイミングです
1回を少なめに、回数を多くしましょう
- おなかがいっぱいのときに発作が来ると、そのまま吐いてしまいがちです
- 1回量を減らして回数を増やすほうが、1日の総量を保ちやすくなります
- 👉 何度試しても吐き戻し、おしっこの回数が減ってきたら受診してください
発作のあとは姿勢を整えましょう
- 抱き起こすか横向きに寝かせて、吐いたものが気道に入らないようにします
- 背中をやさしくさすり、発作が過ぎるまでそばにいてあげてください
- 👉 発作の最中や直後に呼吸が戻らない、唇が青いときはすぐに119番です
空気と刺激を整えましょう
- たばこの煙、強い香り、ほこりなど咳を誘う刺激を減らします
- 室内が乾きすぎないようにして、夜の咳に備えてそばで寝てあげてください
- 👉 咳がないときも呼吸が速い、肋骨の間がへこむときは受診してください
ベビスナで咳の記録を残す
百日咳では、診察室でいちばん役に立つ情報は2つだけです。咳が始まった日と、1日に発作が何回来ているかです。抗菌薬は早いほど効果が大きく、いつ診断されたかが治療の判断を左右するので、「いつからですか」に正確に答えられるだけで話が早く進みます。困るのは、昼も夜も看病していると、その日付が驚くほど早くあいまいになってしまうことなんですね。
ベビスナに、咳が始まった日、1日の発作の回数、発作のあとに吐いたかどうか、息が止まった瞬間があったかを短く残しておくと、この流れがそのまま形になります。授乳量やおしっこの記録と並べて見れば、脱水に向かっていないかも目に入ります。ご夫婦で交代しながら夜を越える時期には、おたがいに「夜は何回だった?」と聞かなくて済むだけでも助かりますよ。
よくある質問(FAQ)
Q: 百日咳の咳はどれくらい続きますか?
A: 3つの段階で進みます。鼻水と軽い咳が出るカタル期が1~2週間、激しい咳の発作が続く発作期が最長3か月、そのあと少しずつ回復する回復期が数週間から数か月です。合わせると数か月かかるため100日咳と呼ばれます。治ったあとも風邪をひくと咳が一時的にぶり返すことがあります。
Q: 赤ちゃんがヒューという音を出さないのですが、百日咳の可能性はありますか?
A: はい、あります。あの音は発作のあとに細くなった気道へ空気を強く吸い込むときに鳴るので、月齢の低い赤ちゃんはその力がなく音が出ないことが多いのです。代わりに数秒間息が止まる無呼吸や、唇が青くなるチアノーゼとして現れます。生後3か月未満でこうした様子が見られたら、すぐに救急を受診してください。
Q: 抗菌薬を飲めば咳は楽になりますか?
A: すでに始まった咳はあまり減りません。抗菌薬の主な目的は症状を和らげることではなく、人にうつすのを防ぐことにあります。ただし咳の発作が本格化する前の早い時期に使うほど効果が大きく、適切な抗菌薬を始めて5日たてばうつす力はなくなります。だからこそ早めの受診が大切なんですね。
Q: 妊娠中に百日咳のワクチンを受けたほうがいいですか?
A: 妊娠中に接種すると抗体が胎盤を通って赤ちゃんに渡り、生後2か月の初回接種までの空白を埋めてくれます。イギリスは妊娠20週ごろ、アメリカは妊娠後期をすすめています。日本ではまだ定期接種になっておらず、日本小児科学会が定期接種化を要望している段階なので、かかりつけの産婦人科でご相談ください。
参考文献

医療上の免責事項: この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医療アドバイスに代わるものではありません。赤ちゃんの健康について心配な点がある場合は、必ず小児科専門医にご相談ください。
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