赤ちゃんの鉄欠乏性貧血 | 血液検査の数値・鉄剤の飲ませ方・治療ガイド
赤ちゃんがやけに顔色が悪い、食欲がない、ぐずりが多い――もしかして貧血ではないかと心配になりますよね。実は、生後6〜24ヶ月の乳幼児の約12〜15%が鉄分不足の状態にあり、その一部が鉄欠乏性貧血(IDA)へと進行します。でも安心してくださいね――鉄欠乏性貧血は早期に発見すれば、鉄剤の服用だけで十分に治療できる疾患です。早期発見が大切な理由は、鉄分不足が長く続くと脳の発達に影響する可能性があるからです。この記事では、血液検査の数値の読み方、貧血の診断基準、鉄剤の種類と飲ませ方、治療経過のフォローアップまで詳しくご紹介しますね。
鉄欠乏性貧血とは?
鉄欠乏性貧血(Iron Deficiency Anemia, IDA)とは、体内の鉄分が不足し、赤血球のヘモグロビン生成が減少して、酸素を運ぶ能力が低下した状態のことです。乳幼児に最も多い貧血のタイプで、世界的には5歳未満の子どもの約42%が貧血の影響を受けています。
鉄分不足は3つの段階で進行します。なぜ段階を理解することが大切かというと、早期発見のタイミングが変わってくるからです。
1. 鉄貯蔵の枯渇期
- 貯蔵鉄(フェリチン)が減少
- ヘモグロビンはまだ正常範囲
- 症状がほとんどなく発見が困難
2. 鉄欠乏性赤血球生成期
- 血清鉄が低下し、トランスフェリン飽和度が低下
- 赤血球の生成に影響が出始める
- 軽い疲労感が現れることがある
3. 鉄欠乏性貧血
- ヘモグロビンが正常値以下に低下
- 赤血球が小さく色が薄くなる所見(小球性低色素性貧血)
- 明確な症状が現れる
貧血ハイリスクの赤ちゃん
以下に該当する赤ちゃんは鉄欠乏性貧血のリスクが高いため、定期的な血液検査が必要です。なぜリスクが高いかの理由も知っておくと安心ですよね。
- 早産児(在胎37週未満):妊娠後期に蓄えられるはずの鉄分が不足
- 低出生体重児(2,500g未満):鉄分の貯蔵量が少ない
- 完全母乳育児の赤ちゃん(6ヶ月以降、鉄分補給なし):母乳の鉄分含有量が低い
- 12ヶ月前の牛乳摂取:腸の微量出血を引き起こす可能性
- 離乳食の開始が遅い(7ヶ月以降も未開始):鉄分摂取の機会不足
- 慢性疾患のある赤ちゃん:消化器疾患、アレルギーなど
貧血の症状:見逃さないで!
鉄欠乏性貧血は徐々に進行するため、初期の症状を見逃しやすいです。以下のサインに注意してくださいね。早期に気づくことで、治療の効果が大きく変わります。
初期症状
- 顔、唇、爪が青白い
- いつもより疲れやすく、活動量が減る
- 食欲がない、または食事に興味を示さない
- いつもよりぐずりやすく、イライラしている
中等度〜重度の症状(以下の症状は貧血がかなり進行した場合に現れます。多くの場合は軽度の段階で健診時に発見されます。)
- 心臓がいつもより速く動く、呼吸が速くなる
- 発達のペースが同月齢の子より遅い印象(ハイハイ、歩行など)
- 土、氷、紙など食べ物でないものを口に入れようとする行動(異食症)
- 舌が滑らかで痛そうに見える症状
- 爪がスプーンのように凹む変化
- 風邪などの感染症にいつもよりかかりやすい
| 症状 | 軽度 | 中等度 | 重度 |
|---|---|---|---|
| 肌の色 | やや青白い | 明らかに青白い | 非常に青白い、黄疸を伴うことも |
| 活動量 | やや減少 | 目立って減少 | ほとんど動かない |
| 心拍数 | 正常 | やや上昇 | 頻脈、心雑音 |
| 食事 | 食欲減退 | あまり食べない | 授乳拒否 |
血液検査の数値の読み方
小児科で貧血が疑われると、指先から少量の血液を採る簡単な血液検査(CBC)が行われます。検査項目がたくさんあるように見えますが、親御さんが覚えておくべきなのはヘモグロビン(Hb)とフェリチン(Ferritin)の2つだけで十分です。残りは先生が総合的に判断してくれますよ。
主な検査項目と正常範囲
| 検査項目 | 略称 | 乳幼児の正常範囲 | 貧血時の変化 |
|---|---|---|---|
| ヘモグロビン | Hb | 6〜24ヶ月:11.0g/dL以上 | 低下(11g/dL未満) |
| ヘマトクリット | Hct | 33%以上 | 低下 |
| 平均赤血球容積 | MCV | 70〜86fL | 低下(小球性) |
| フェリチン | Ferritin | 12ng/mL以上 | 低下(貯蔵鉄不足) |
| 血清鉄 | Fe | 50〜120mcg/dL | 低下 |
| 総鉄結合能 | TIBC | 250〜400mcg/dL | 上昇(鉄不足の代償) |
| トランスフェリン飽和度 | TSAT | 16%以上 | 低下(16%未満) |
| 網状赤血球ヘモグロビン | CHr | 26pg以上 | 低下(早期指標) |
年齢別ヘモグロビン正常範囲
| 年齢 | ヘモグロビン正常範囲 | 貧血の診断基準 |
|---|---|---|
| 新生児(出生時) | 14〜24g/dL | 13.5g/dL未満 |
| 生後1ヶ月 | 10〜18g/dL | 10g/dL未満 |
| 生後2〜6ヶ月 | 9.5〜14g/dL | 9.5g/dL未満 |
| 6〜24ヶ月 | 11〜14g/dL | 11g/dL未満 |
| 2〜5歳 | 11〜14g/dL | 11g/dL未満 |
貧血の診断基準と重症度分類
WHO貧血重症度分類(6〜59ヶ月)
| 重症度 | ヘモグロビン値 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 正常 | 11.0g/dL以上 | 症状なし |
| 軽度の貧血 | 10.0〜10.9g/dL | 軽い蒼白、経口鉄剤で治療 |
| 中等度の貧血 | 7.0〜9.9g/dL | 明確な症状、積極的な治療が必要 |
| 重度の貧血 | 7.0g/dL未満 | 輸血を検討、緊急事態の可能性 |
鉄剤の種類と飲ませ方
貧血と診断されると、医師が経口鉄剤を処方します。正しい飲ませ方を知っておくと、治療効果を最大限に引き出すことができますよ。
小児用鉄剤の種類
| 種類 | 元素鉄の含有量 | 特徴 |
|---|---|---|
| 硫酸第一鉄シロップ | 約20% | 最も一般的な処方、費用が安い |
| 含糖酸化鉄(インクレミン) | 約6% | 胃腸の副作用が少なく飲みやすい |
| 鉄ドロップ | 製品により異なる | 乳児用、正確な用量調節が可能 |
用量
- 治療用量:元素鉄換算で3〜6mg/kg/日、1日1〜3回に分けて投与
- 予防用量(早産児):元素鉄換算で2mg/kg/日
- 最大用量:1日の元素鉄が15mg(乳児)〜60mg(幼児)を超えないように
正しい飲ませ方
1. 空腹時の投与が原則
- 食事の30分〜1時間前、または食後2時間
- 空腹時の吸収率は約2〜3倍高い
- ただし、お腹が張る場合は少量の食事と一緒に投与可能
2. ビタミンCと一緒に
- オレンジジュース、いちごのしぼり汁などビタミンCが豊富な飲み物と一緒に
- 鉄分の吸収率が最大6倍まで増加
3. ミルク・カルシウム剤とは間隔をあける
- ミルク、乳製品、カルシウムサプリメントとは最低2時間の間隔を
- カルシウムが鉄分の吸収を妨げるためです
4. 歯の着色を予防
- 鉄シロップは歯を黒く変色させることがある
- シリンジで口の奥に入れる方法が効果的
- 服用後は水で口をすすぐか、歯を磨く
鉄剤の副作用と対処法
鉄剤を服用すると、一部の赤ちゃんに副作用が現れることがあります。ほとんどは一時的なもので、対処法がありますので安心してくださいね。
- 便が黒くなる:これは正常な反応です。吸収されなかった鉄分が便として排出される際に黒くなります。鉄剤をやめると元の色に戻ります。ただし、便に血液が混じっている場合は医師に相談してください。
- 便秘または下痢:投与量を分けて与えるか、食事と一緒に飲ませると改善します。水分や食物繊維の摂取も増やしましょう。
- 吐き気・嘔吐:空腹がつらい場合は少量の食事と一緒に飲ませましょう。少ない量から始めて徐々に増やす方法も効果的です。
- 腹痛:用量を減らしてから、1〜2週間かけてゆっくり増やして体を慣らしていきましょう。
| 副作用 | 頻度 | 対処法 |
|---|---|---|
| 黒い便 | ほぼすべての赤ちゃん | 正常な反応、心配不要 |
| 便秘 | 約20〜30% | 分割投与、水分・食物繊維を増やす |
| 吐き気・嘔吐 | 約10〜15% | 食事と一緒に、少量ずつ投与 |
| 歯の着色 | シロップ製剤 | シリンジ使用、服用後に歯磨き |
治療経過とフォローアップスケジュール
鉄剤の服用を始めると、いつ頃効果が現れるのか、どのタイミングで再検査をするのかを知っておくと、治療の見通しが立って安心ですよね。
治療反応のタイムライン
1. 服用開始後3〜5日
- 網状赤血球(reticulocyte)の増加が始まる
- ヘモグロビンの変化はまだわずか
2. 服用開始後1〜2週間
- 網状赤血球数がピークに達する
- 赤ちゃんの活動量や食欲が少しずつ改善
3. 服用開始後4週間(1ヶ月)
- ヘモグロビンが1〜2g/dL上昇することが期待される
- 最初のフォローアップ血液検査を実施
4. 服用開始後2〜3ヶ月
- ヘモグロビンが正常化
- 2回目のフォローアップ検査で正常を確認
5. 服用開始後3〜6ヶ月
- 貯蔵鉄(フェリチン)が正常化
- 治療終了の可否を判断
| 時期 | 検査項目 | 期待される変化 |
|---|---|---|
| 治療開始前 | CBC、フェリチン、血清鉄、TIBC | 基準値の確認 |
| 4週間後 | CBC(Hb中心) | Hb 1〜2g/dL上昇 |
| 2〜3ヶ月後 | CBC、フェリチン | Hb正常化、フェリチン上昇開始 |
| 3〜6ヶ月後 | フェリチン | 貯蔵鉄の正常化(12ng/mL以上) |
輸血が必要な場合
鉄欠乏性貧血のほとんどは経口鉄剤だけで十分に治療できます。輸血が必要になるケースは非常にまれですが、以下のような深刻な場合には検討されることがあります。
- ヘモグロビンが5g/dL未満、または急激に低下している場合
- 心不全の症状(速い呼吸、頻脈、むくみ)を伴う場合
- 活動性の出血がある場合
- 手術前に貧血の是正が必要な場合
輸血は濃厚赤血球(pRBC)を少量ずつゆっくり投与します。心臓への負担を減らすため、10〜15mL/kgを4時間かけて輸血します。輸血後も根本的な原因の治療のため、経口鉄剤の服用を継続します。
予防のためのスクリーニング検査
日本小児科学会およびアメリカ小児科学会(AAP)推奨のスクリーニング
- 生後9〜12ヶ月:すべての乳児にヘモグロビンまたはヘマトクリット検査を推奨
- ハイリスク群(早産児、低出生体重児):生後4ヶ月から早期検査
- 12ヶ月以降:リスク要因がある場合は毎年検査
主な予防策
- ミルク育児の場合は鉄分強化ミルクを使用
- 6ヶ月から鉄分豊富な離乳食を開始(お肉、鉄分強化シリアル)
- 完全母乳育児の赤ちゃんは4ヶ月から鉄分補給(AAP基準:1mg/kg/日)
- 12ヶ月前の牛乳は避ける
- 12ヶ月以降は牛乳の摂取量を1日480〜720mL以下に制限
ベビスナで赤ちゃんの貧血を管理
鉄欠乏性貧血は継続的なフォローアップが重要です。ベビスナアプリで赤ちゃんの健康状態を体系的に記録・管理しましょう。
- 健康記録:血液検査の数値(Hb、フェリチンなど)や鉄剤の服用スケジュールを記録して、治療の経過をひと目で確認
- 授乳・離乳食の記録:鉄分豊富な食事を記録し、栄養バランスをモニタリング
- AI相談:貧血の症状や鉄剤の副作用など、気になることをいつでもAIチャットボットに相談
よくある質問(FAQ)
Q: 赤ちゃんの貧血検査は何ヶ月で受けるべきですか?
A: AAPや日本小児科学会では、生後9〜12ヶ月にすべての乳児の貧血スクリーニングを推奨しています。早産児や低出生体重児は生後4ヶ月から早期検査が必要です。赤ちゃんの顔色やエネルギーレベルが気になる場合は、いつでも小児科で血液検査をお願いしましょう。
Q: 鉄剤を飲ませたら便が黒くなりましたが、大丈夫ですか?
A: はい、正常な反応です。吸収されなかった鉄分が便として排出される際に黒くなります。鉄剤の服用をやめると元の色に戻ります。ただし、便に血液が混じっていたり、タール状で強い臭いがある場合は、消化管出血の可能性があるため、すぐに医師に相談してください。
Q: 鉄剤はどのくらいの期間飲ませる必要がありますか?
A: ヘモグロビンが正常化した後も、最低2〜3ヶ月は鉄剤の服用を続けて、体内の貯蔵鉄(フェリチン)を十分に補充する必要があります。治療期間は通常3〜6ヶ月です。早めにやめてしまうと貧血が再発する最も多い原因になります。
Q: 母乳育児の赤ちゃんでも貧血になりますか?
A: はい、なり得ます。母乳には吸収率の高い鉄分が含まれていますが、総量は少ないです。生後4〜6ヶ月で出生時の貯蔵鉄が枯渇するため、6ヶ月以降は鉄分豊富な離乳食を始めるか、医師に相談して鉄分補給を検討してください。
参考文献



